2017/2/28

自分史上最高に涼しい目をしている人だった。嘘みたいに綺麗な顔だけど、嫌な予感が淵に宿っていて、実際危険だった。

 

一昨日の深夜、会う直前に蕁麻疹が出た。居酒屋のトイレで暫く悶絶していたけど全く心配されなかった(鼻水が止まらなかったので気持ち悪がられなかっただけ良かったけれど)。

その日の最初早口で喋るから緊張しているのかと思って、そのまともさに安心しかけたけれど、私がいつものように表面的な話をしてへにゃへにゃ笑っていたら、それをコピーして、誘導した。

巧みとは言えなかったけれど、私の流され易さか静かな合意を見抜いて手を抜いたんだな。

そのまま外へ出て適当にキスをされ、手を引かれてホテルに行った。

私は混乱したフリをして、自分の体裁の為だけにどっち付かずな誠意を示したけれど、初めからセックスしてくれそうだったからセックスしたかった。

相手を切らしたタイミングでもあった。集合時間を深夜に設定したのも私だ。

どっちもまともとは言えないかもしれないけれど、少なくとも彼は私以上だ。

 

最初は普通にエッチした。

首を絞めるのが好きだと言っていたから私はやってみたいと言った。

首の窪みを押したりそこに噛み付いたりして、限界を探った。そのまま口を塞がれると酸欠状態になって気持ち良かった。

悦んでいるのがバレると頬を叩かれた。

首を締めて少し経ったらキス、殴る、キス、叩く、キス……。

飴と鞭を交互に与えて、これが調教か、と思った。全く愛情を感じないので只々痛かったけれど、これに耐えられない自分が嫌だったからぶたれ続けた。

コードで腕を縛られ目隠しされ、体中何度も殴られた。

可哀想な自分が最高にかわいかった。

痣だらけの体を抱いてぼろぼろ泣いている自分が最高にかわいかった。

かわいい可哀想な私を演じたら痛かったね、と言って抱きしめてくれた。でも、何を、どこまで見抜いてこれをやったのか分からなくて、考える程恐ろしかった。

一通り終えた後部屋を明るくして、私の背中とふとももにできた痣や傷を撫でながら、痛い場所を丁寧に説明された。

叩いたのは初めてだと言っていた。それが本当ならもっと怖い。

彼は自分の爪の話をした。噛む癖が治らないらしい。ズタズタで炎症を起こしていて、確かに酷かった。ある意味自傷癖だよね、とぼやいた。私はうまい言葉が出てこなかったから指先を哀れんでキスした。朝7時を回っていた。

 

爪のこと、さみしいのかな?と聞いたら、そうかもね、と答えた。でも、女にモテるし、家族は仲が良いし、俺は絵も上手いと言った。

私のことすぐやれそうだなと思った?と聞いたら、断らなそうだと答えた。もっと自分出した方がいいよ、と言って数十秒後に寝息を立てていた。

私は新しい煙草を開け、彼の財布から三千円抜き取って、一人で退室した。

ドアの前に清掃員のおばさんと洋服を着せられた小さいパグがいた。パグはおどおどしていて零れ落ちそうな瞳をしていた。火うち箱の犬。しゃがんで手を広げたら擦り寄ってきてかわいかった。

そのまま六本木へ向かった。今この可哀想な私は、全然かわいくなかった。